スチル |
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(なんだか人だかりが出来てる……有名人でもいるのかな?) ゴメン。ホント、もうそろそろ行かないと。 (あ、佐伯くんだ……。) 女生徒A「えぇ〜!もうちょっと、いいでしょ? ゴメンね。今日はちょっと家で用事があるから。 女生徒B「ダメェ!佐伯クン、こないだもそう言って付き合ってくれなかったじゃん! ハハ……そうだっけ?あ、そうか、今日は予備校だった! 女生徒C「ズル〜イ!そんなの見え見え〜! (わぁ……女子に囲まれちゃってモテモテだ。マンガみたい…。) 参ったな……。 佐伯くん! アッ!やあ、君も今帰り? う、うん、そうだけど。”君”って……。 じゃあ、送っていくよ。道、まだわからないんでしょ? 女生徒A「そんなのズルイ〜!私たちも送ってぇ! ほら、彼女、家が近所なんだけど、越してきたばかりで、まだ道がわからないって言うから。 ううん、もう大丈夫だよ! …………まだわからないって言うから。 え!?あの、え〜と、そ、そうだっけ……。 行こうか?ちょうど僕も帰るところなんだ。 (”僕”だって……。) 女生徒B「もう!佐伯クン優しいんだから〜! 女生徒C「わたしも佐伯クンの近所に引っ越そうかなぁ〜。 み、みんな、ごめんね? (うぅ、みんなの視線が痛い……。) |
帰り道 |
助かった。学校でグズグズしてたら、開店時間に間に合わないからさ。 そっか、佐伯くん、お店が忙しいもんね。それにしても……モテモテだったね? ウルサイ。 あ、照れてる。でも、どうしてお店のこと隠してるの? 学校ではヒミツなんだよ。ウチの店、夜遅いから問題あるし。それに……。 それに? ゼッタイ成績に影響が出ないこと。学校では問題を起こさないこと。店を続ける条件なんだ。 条件って、両親との約束とか? まあ、そんなとこ……いけね、俺、急がなきゃ!じゃあ! (佐伯くん、大変なんだ……) |
自室 |
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(アルバイト募集のメールだ……喫茶店かぁ。あれ?"珊瑚礁”ってどこかで……) (あ、急募って書いてある!すぐ返信しないと間に合わないかも……どうしよう。) 『返信して応募する』『応募しない』 (応募してみよう!……送信、っと。) (いい返事が来るといいな。) (さっそく喫茶店から採用の連絡がきた。) (申し込み間に合ってよかった。よーし、がんばるぞ!) |
珊瑚礁 |
(……もしかしたらって、思ったけど、このお店、入学式の朝の……ってことは……) いらっしゃいませ。喫茶珊瑚礁へようこそ。 あ、やっぱり!佐伯くん! 1名様でよろしいですか?お席へご案内いたします。 あれ?佐伯くんでしょ? …………。 ねぇ、佐伯くんだよね? ちょっと、ツラ貸し──いえ、よろしいですか? ? なんで店に来た? わたし、今日からここでバイトすることになって…… なんでよりによってウチなんだよ?バイト先なんていくらでもあるだろ? だって、わかんないよ!求人情報で応募したんだもん! 帰れ。 そんな! 「こんにちは、アルバイトの方ですね? あ、はい!○○ ☆☆です。 「よろしくお願いします。この店のマスターです。あぁ、瑛の祖父でもあります。 そうなんですか……じゃあ、わたし何て呼べば── 店ではマスターって呼ぶんだ。公私混同はダメだ。 「だ、そうです。じゃあ、マスターにしておきましょうか? はい、よろしくお願いします! よろしくない!帰れよ! 「これ!女の子に何て口の利き方するんだ、お前は。 だって、学校の奴なんだ!それにボンヤリだし……絶対、店のこと学校にバラしちゃうよ! わたし、バラしたりしないよ? 「まあまあ、やれるところまでやってみるさ。 無理。絶対バレる……。 バレない! 「いい加減にしなさい、二人とも。さあ、店に入った入った。 (よーし、がんばるぞっ!) 「じゃあ、さっそくで悪いけど、瑛を手伝ってやってください。 佐伯くん、よろしくね! …………。 あの……怒ってる? オーダーとるから、付いて来い。 は、はい! |
スチル |
お待たせいたしました。お決まりですか? お客A「あのっ、このお店のオススメってなんですか? 珊瑚礁ブレンドになります。コロンビアベースで少し酸味がある、マスター自慢のブレンドです。 お客B「あ、わたしそれ! (佐伯くん別人みたい……。学校に居るときとも違ってすごく大人っぽいし……。) お客A「わたし酸味があるの苦手で……。 それでは……ブラジルブレンドはいかがでしょう? お客A「えっと、それってどんな…… 爽やかな口当たりで、きっと気に入っていただけると思います。僕がブレンドしました。 お客A「それ、お願いしますぅ♡ かしこまりました。 (お客さんにモテモテ。カッコいいもんね……。) ★(あ、スプーンが!) ★そのままで結構です。すぐ、新しいのをお持ちしますので。 ★(一瞬でフォローした!しかも爽やか……。) |
珊瑚礁 |
…………。 すごいね、佐伯くん!バイトっていうよりプロって感じ。同い年とは思えないよ。 オーダーお願いできますか? えっ!?あ、はい!え〜と、バニラアイスと…… トレイ、ください。 は、はい。どうぞ。あ。あ、痛っ! ボケッとすんな。 (うぅ、お盆で……。) |
繁華街 |
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(それにしても遅いな!忘れちゃったのかな……あっ!) (やっと来た……けど。ずいぶん、のんびり歩いてるな。) (あ、欠伸した。急ごうとか、そういう気はまるで無い、と。) (よぅし!ちょっと、隠れて後ろからおどかしてやろう!) (来た来た!) (あれ?) どうかしましたか!?具合が悪いなら、救急車を! あ、いえ!なんでもないんです!ちょっと、友達をおどかそうと── ほぉ。 |
スチル |
痛っ! 100年後にもう一度挑戦してみろ。行くぞ。 (うぅ……やっぱり佐伯くんの方が一枚上手みたい。) |
文化祭 |
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(ふぅ。大繁盛なのはうれしいんだけど……ちょっと混んできたな。) (どうしよう……。このままじゃ、お客さん回しきれないかも……。) ☆☆。なにキョドってんだ?ハムスターか、おまえは。 あ、佐伯くん!うん……ちょっと、人手が足りなくて。 人手は足りてる。手際の問題だな。これじゃ、何人いたって回らない。効率、悪すぎだ。 う〜ん……そうだ!佐伯くん、ちょっと手伝ってよ。 ゴメン、ほら僕、お客だから。ホットコーヒー1つ下さい。 ケチ!佐伯くん、プロなんだから、こんなのお手の物でしょ? わっ!バカ! ね!ほら、奥にエプロンあるから! おまえな……。 |
スチル |
オーダー。ホット1。 はーい! ついでに3番テーブル下げてけ。あと、皿洗いは二人でやるなって言っといて。 はいはい! お客A「見て、プリンスがいる!カッコいい〜v お客B「ウェイター姿、決まってる〜vね、ね、なんか飲んでいこう! いらっしゃいませ。ただ今、お席までご案内します。 (さすが、佐伯くん……オーダーがどんどん片付いてく。) |
文化祭 |
ふう……一段落だな。 おかげさまでなんとか切り抜けられたよ。ありがとう、佐伯くん。 まあな。俺に仕切らせたらざっと、こんなもんだ。ああ、疲れた……。コーヒーくれ。 は〜い!ホット、ワン、1リッチになります! 取んのかよっ! |
ショッピングモール |
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(わぁ、トイレさがしてたら、道に迷っちゃった……佐伯くん、怒ってるかな?) (え〜と、佐伯くん……いた!ん?) |
スチル |
(あ、髪、直してる!) (へぇ……普段、無造作っぽくしてるけど、結構、気を遣ってたんだ……。) !? |
ショッピングモール |
お、おぅ!遅かったな。 お待たせ!佐伯くん、今日も髪型、キマってるね? ……なんだよ、急に? あ、とぼけてる。今ウインドウ見て、髪直してたでしょ?ちょこちょこっと。 ……してない。 ウソ!見ちゃったよ! してないったら、してない。 あれ?後ろの方、まだちょっと跳ねてるかも。 どこ、マジで? ううん、ウソ。 …………。 ね、ねぇ……なんか目が恐いよ。 今からおまえの髪を再起不能なまでグシャグシャにする。 わぁ!ゴ、ゴメンッ! |
校内 |
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(よしっ、一番乗り!うーん、気持ちいい!) (さて、お弁当食べようっと♪) (……あれ?誰かいたのかな……。) |
スチル |
(佐伯くん!?) ……。 (びっくりした……すごいカッコだけど、寝てるだけみたい。) 佐伯くん? ……。 (よく寝てる……。そうだ!この機会にいつもの仕返しを──) ……。 (無防備に寝てるな。安らかな顔しちゃって……でもちょっと、可愛いかも。) ……。 (いつも機嫌悪そうにしてるけど、それは、忙しいからだもんね。……そっとしてあげよう。) …………ん? |
校内 |
……………。 佐伯くん、よく寝てたね? ……今、何時? お昼休み。もうすぐ午後の予鈴が鳴るとこ。 ……いけね、ホースラディッシュとブラウンシュガーだ。 ??? ウェハース3ダース、ジャージ。体育館履きは……何ダースだっけ? 佐伯くん……ひょっとして、寝ぼけてる? ハッ!昼休み終わり!? う、うん。 化学準備室、行かなきゃ! ……っと、寝癖、大丈夫? う、うん、大丈夫かな? どっち!? 大丈夫! 遅い! 痛っ! もうっ!”可愛い”は取り消しだ! |
家 |
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もしもし、俺。 なぁ、おまえ今日も暇だろ?天気いいし、海日和だし、これから浜に来ないか? ……ちょっと引っかかるけど。いいかも! 決まり。じゃあ、急いでな。水着、忘れんなよ? 忘れないよ!だって海に行くんでしょ? ハハハ。 ……? 言っとくけど、スクール水着とかいうボケは無し──いや、今時はかえってそういうのも……。 ??? とにかく、早く来いよ。あ、ほら、じきにビーチ混むからさ。珊瑚礁で待ってる。 珊瑚礁ね?わかった! |
スチル |
え〜……ウェハースとスタッフドオリーブとモヤシとそば玉!買って来たよっ! お疲れ!じゃあ次は、”トロピカル焼きそば”、上がってるから3番テーブルへ。 ……ねぇ。今日誘ってくれたのって、もしかして、お店の手伝い? 考えるな。働け。話はそれからだ。で、さっさと水着に着替えてエプロンつけたら、フロアな。 うぅ……それ、どうしてもやるの?やっぱり、恥ずかしいよ。 恥ずかしくない。水着エプロンの女子高生が珊瑚礁に与える経済効果を考えろ。 佐伯くんのオヤジ!悪魔! 何とでも言え。つーか、”トロピカル焼きそば”早く。 …………。 お客「お兄さん!こっちもお願いね♡ はぁい!ただいま!トロピカル焼きそばっ! ハーーイ! (もう、ヤケだ!) |
教室 |
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(当番だから早めに来たけど、ちょっと早すぎたかな。一番乗りかも……ん?) (佐伯くん、だよね?勉強かな……あれ?) |
スチル |
(メガネかけてる!!わぁ、珍しい……。) (ちょっと不思議……ほんとにほんとの素顔って感じがする。) アッ! ん? |
教室 |
おまえさ、黙って見てんなよな。趣味悪いぞ。 ゴメン!……でも、どうしたの?こんなに早く。 昨日の夜、仕入れのチェックが多くて、授業の予習ができなかったんだ。店にいると、つい仕事しちゃうし。 そっか……大変だね、お店と学校の両立。 べつに。勝手にやってることだし。 あ、そうだ。ねぇ、メガネ持ってたんだね?びっくりしちゃった。 目、悪い奴はフツー持ってるだろ?本読む時はこっちのが楽なんだ。 でも普段はコンタクトなんだ。どうして? だって……なんかカッコ悪いじゃん。メガネ。 そうかな?結構、似合ってたよ? 似合ってないんだ!あぁ、もう、あっち行けよ!みんなが来る前に終わらせんだから! ハイハイ!お邪魔しました。 (そっか、佐伯くん、人の見てないところでこんなに努力してるんだな……) |
海 |
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なぁ、ちょっとここから歩くけど、入り江の岩場まで行かないか?潜るのにいいところがあるんだ。 いいよ!行こう! |
スチル |
佐伯くん! ハァハァ……なんだ?おまえ、もう泳がないの? うん、ちょっと水が冷たくなってきたし。佐伯くんも、もう上がったら? もうちょっといいだろ?ここ、久しぶりなんだ。 小学生の頃はさ、じいさんとここでよく潜ったんだぜ! サザエとかトコブシとか獲れるんだ! へぇー……あっ!でも、勝手に海のものを獲っちゃダメなんでしょ? そう!組合の人に見つかって、一緒にめちゃくちゃ怒られた!アハハッ! アハハって。悪いなぁ、二人とも! うちのじいさん、ああ見えて前は結構ワイルドだったんだぜ? このあたり全然かわってないよ……。 でも、日も落ちてきたし、いい加減に上がらないと、風邪ひくよ? お願い!あと、もう1回だけっ!なっ?……オッ!? 佐伯くん!?行っちゃった……。 (ハァ……佐伯くんて、海に入ると子供みたいになっちゃうんだから。) (ずいぶん長いな……。) (ちょっと長すぎるような……ハッ!もしかして!?どうしよう……。) プハァ!!ハァ、ハァ……ハァ……やっぱり、海がいいな。 佐伯くん!!もうっ!溺れたかと思ったよ! ハァ、ハァ……ごめんっ!お土産獲ってきた!ホラッ! ワッ!……な、なに? タコっ! ぎゃあ!! アハハッ!! |
修学旅行 |
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ん?あれ、あそこ。もしかしたら古道具屋かな? 古道具屋? そう。時間、まだ大丈夫だな。来いよ。 あ、待ってよ! |
スチル |
きれいな時計だね……。 ああ、ガラス時計って言うんだ。大正とか昭和初期によく作られて、古道具屋なら大抵いくつか置いてる。 へぇ……さすが、物知りだね。 まぁな。じいさんの受け売りだけどな。一緒に集めてたんだ。 子供の頃、家族で旅行すると、いつもじいさんに付き合わされて、古道具屋、物色してさ── 佐伯くんは、本当におじいさんと仲いいんだね? べつに、そうでもないけど……でも、ここは多いな。大当たりだ。 ふふ、よかったね。 あ、これ、青いやつ、人魚のレリーフだ。 おっそれいいな。わかってるじゃん。 ?本当だ、可愛い。 俺、こうして青とか緑のガラスに囲まれていると、なんだか海の底にいるみたいな不思議な気分になるんだ。 うん……わかるような気がする。 ホントかよ? ホントだよ! そっか。なんかいいな、そういう感覚、同じなのって。 そうだね。 プッ…… なぁに? いや、ちょっと……歪んだガラス越しにおまえの顔見たら……変なの。 あ、ヒドイ! |
ロビー |
はぁ、やっと着いたか。……でも、なんかさ、素直に楽しかった。 うん、わたしも。誘ってくれてありがとう。 なあ……明後日のもう1日の自由行動、また、一緒に回ろうな? うん。一緒にまわろう。 ああ。楽しみにしてる。 |
学園演劇 |
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(う〜、緊張するなぁ……。) ☆☆。 佐伯くん……。 顔、真っ青だぞ?緊張してるだろ? う、うん……佐伯くんは大丈夫? 実は、さっきまでちょっとな。でも、おまえの顔見たら、なんだかホッとした。 佐伯くん……。 「これより、羽ヶ崎学園、学園演劇を開演いたします。 よし、俺は大丈夫!もっとトチりそうな奴がいるから!行くぞ! もうっ! |
スチル |
あなたの瞳は夜の海のようです。引き込まれてしまいそうだ。 私と踊っていただけませんか? (わぁ……佐伯くんって、こういう衣装が良く似合うな。本物の役者さんみたい。) なぜ何も答えてくれないのです?ワルツはお嫌いですか?それとも、私が? (”いいえ”と、切なそうに首をふる、と。) それなら、どうか!さぁ、私にエスコートさせてください! (喋らないのって難しい……嬉しいのに声が出ない人魚姫も、きっと切なかったろうな……) …………。 (あれ?どうしちゃったんだろう?佐伯くん。急に硬くなっちゃったみたい。) なんだよ。台詞忘れるだろ。 ねえ、もしかして緊張してる? ま、まあな。 珍しい……痛っ!佐伯くん、脚踏んだ。 しょうがないだろ?ワルツなんて言われたって、簡単にできっこないんだ。 それにしても王子様なんだから、もうちょっと、こう──痛っ!また、踏んだよ? 痛っ!踏み返すか普通? 人魚のクセに足があるのがいけないんだ。いやならさっさと海に帰れよ。 ひどい……。 ……ゴメン。 子供の頃からダメなんだ、こういう、リズム感みたいの……フォークダンスが精一杯だよ。 だから、ダンスがあるって知って、王子役、断りたかったんだけど…… ……? しょうがないだろ。おまえが人魚姫なんかに選ばれるから。 なんか、おまえが他のヤツと踊るのかと思うと、腹立つし……。 (佐伯くん……。) ゴメン……機嫌なおせよ。 ふぅん。 ……なんだよ? 佐伯くんって、けっこうヤキモチ妬きなんだね? ち、違っ!俺はただ、その── 痛っ!また踏んだ! 今のはワザとだ。 |
学園演劇 |
演劇で主役になれたし、いい思い出になったな……。 |
クリスマス合宿 |
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ん……電話……? もしもし?俺。 ……佐伯くん!?どうしたの? 寝てたか? 寝てるよ!だって、今……4時だよ!? そっか。まあ、いいや。窓、開けてバルコニーに出て。 ???どうして? どうしてもだ。早く。 ウゥ〜、寒いっ!もう、なんなの……。 |
スチル |
ヨッ、と! ……!? オッス。 佐伯くん!どうしたの!?泥棒かと思ったよ! クリスマスだぜ?サンタに決まってるだろ? …………。 玄関が閉まってたんだ。それに、こういうドラマっぽいの一度やってみたかったし。 もう。どうしてこう、いちいちやることが極端かなぁ……。 ブツブツ言うな。わざわざ、プレゼント持ってきてやったんだぞ? そうだったんだ……ありがとう。 うん……。メリークリスマス。 メリークリスマス。……ごめんね。わたし、プレゼント持ってない。 いいよ。顔見れたから、それで勘弁してやる。 ……なんだか、佐伯くん、今日はいつもより優しいね。 そうかな? それに……元気ないみたい。昼間は、お店が忙しいんだって、あんなにはりきってたのに。 ああ、店、な。……うん。 ……?珊瑚礁で、何かあった? 今夜で、閉店になったんだ。 エッ!?だって、そんな急に……。 うん。……けど、じいさんは、もう、ずいぶん前から決めてたんだって。 でも!佐伯くん、珊瑚礁のために今まであんなに── 大きな声だすなよ。みんな起きるだろ?大丈夫。俺、思ったより平気だ。 佐伯くん……。 もう行くよ。タクシー待たせてるんだ。……おやすみ。 (佐伯くん。平気だなんて、そんなハズ無いのに……) |
クリスマスパーティ |
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(パーティー盛り上がってるな!やっぱり佐伯くんも来ればよかったのに。) (きっと今頃、お店の中を飛び回ってるんだろうな。……ちょっと、電話してみよう!) もしもし?佐伯くん?メリークリスマス! ん?ああ、おまえか。 どう?お店の方は大繁盛? え?いや、あ……うん……。 ……どうかした?なんか、おかしいよ? どうもしないって。こっちのことはいいから。……じゃあ。 あ、佐伯くん! (何かあったのかも。佐伯くん、強がりだから……今ならまだ電車もあるし……よし!) 先生、すみません!わたし、急用ができて── |
珊瑚礁 |
(フゥ……間に合った!まだお店開いてるみたい!) (……あれ?でも、なんか静かだな……。) だって、じいちゃんだって、あんなにがんばってたじゃないか!そんなの納得できないよ! (佐伯くん?) 「とにかく、もう決めたことだ。この店は今夜でおしまい。あきらめなさい。 (お店を……そんな……) !! あ、佐伯くん!! 「やあ。どうしたんですか、こんな夜更けに…… 佐伯くんに電話したら、ちょっと様子がおかしかったから、それで…… 「ありがとう。瑛の奴を心配して来てくれたんだね。 お店、閉めちゃうんですか? 「聞いていたんですか。……そう、今日で珊瑚礁は閉店です。 でも急に、どうして…… 「年寄りのわがままです……。これまで一生懸命店を助けてくれた、瑛にもあなたにも、すまないと思うけど。 でもそれじゃ佐伯くんは、納得できないんじゃ……。 「ああ、そうだね……こんなこと頼めた義理じゃないけど、ちょっと、瑛を見てやってくれないか。 「甘え方を知らないだけで、本当は、そんなに強い奴じゃないんです。 「店は、僕が閉めておくから。 はい。 佐伯くん。 …………。 ねぇ、佐伯くん。 ……なに? 大丈夫?何かできることがあったら── べつに、平気。 でも、あんまり平気には見えないけど……。 じゃあ……膝。 膝? 膝、貸して。 |
スチル |
いい気持ち。 ……うん。良かった。 俺、わかってたよ。気づかない振りしてたんだ。 ……? 口に出しては言わないけど、じいさん、俺がいっぱいいっぱいなの見かねてたんだ。それで……。 (そうだったんだ……) なあ……俺、できること全部、やれたのかな? 佐伯くんは、がんばったよ。 そうか。……もうちょっと。 ん? もうちょっと、このまま。少し……疲れたんだ。 いいよ。ゆっくり休んで。 うん……メリークリスマス。おまえがここに居てくれて、よかった。 あったかい……。 (メリークリスマス。佐伯くん……) |
佐伯の部屋 |
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(う〜ん……ん?) (あれ?毛布がかかってる……そっか、わたし寝ちゃったんだ。) (佐伯くん、どこだろう?) おはよう。 佐伯くん!お、おはよう……わたし、寝ちゃって── ああ、うん、その……言っとくけど!俺、変なことしてないから……。 う、うん……。 それで……あのさ。そこに俺のジャージ置いといたから、着替えろよ。 ジャージ?どうして? 見せたいものがあるんだ。海に入るんだよ。 ええ!?海って……だって今12月だよ!?だいいち水着もないし── 平気。ドライスーツ貸してやるから。ジャージの上から着れば濡れないし、寒くないよ。 でも……。 急げよ、時間が無いんだ。 |
スチル |
ウゥ……佐伯くん!やっぱり寒いよっ!! あたりまえだろ?何月だと思ってんだよ。 騙された……。ねぇ、見せたいものって?暗くてあたりが良く見えないよ。 ちょっと待てよ。もう少しだから……。 わぁ……太陽が水平線から昇ってく……。 ああ。こうして海に浮かんで見ると、まるで別の星の夜明けみたいだろ? そうだね……不思議な感じがする。 何度見ても不思議で、きれいだ。だから、どうしても一度、おまえと一緒に見ておきたかった。 ありがとう。寒い思いした甲斐があったかも。海もキラキラしてきれい。 くっついてろ。ちょっとは温かいから。 俺、この時間の海が好きだよ。穏やかで、神秘的で……人魚に会えそうな気がする。 ……人魚に? ああ……。 (佐伯くん、もしかして……) そろそろ戻ろう。コーヒー飲みたくなった。 うん!佐伯くんのコーヒー飲むの、久しぶり! 甘い。俺、もうバリスタじゃないんだぜ?たまには、おまえが淹れろ。 (……良かった。いつもの佐伯くんに戻ったみたい。) ほら、しっかり捕まってろ!ボヤっとしてると、落っことすぞ? ワッ! 良かった。おまえと見られて……。 |
自室 |
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もしもし?なあ、これから出てこれないか? 今から?う〜ん……いいよ。今どこ? 防波堤のとこ。急で悪いけど、あんまり時間が無いんだ。 うん、わかったけど……佐伯くん、どうかした? 話がある。……じゃあ、待ってる。 (どうしたんだろう……) |
スチル |
お待たせ! ゴメン、急に呼び出して。 ううん。それより、話って? 俺さ……戻ることにしたよ、家に。親のところに。 でも、たしか佐伯くんのお家は…… ああ、遠いよ、ここからは。だからさっき、ちょっと早めに卒業証書もらってきたんだ。 卒業証書って、それじゃあ…… 向こうで浪人して、親が薦める大学に行くよ。 珊瑚礁は、あきらめちゃうの? ああ、もともと無理だったんだ。これ以上駄々こねても、みっともないだけだ。 みっともないなんて……、あんなに必死にがんばってたのに。 意地はってただけだよ。独りじゃ何も出来ない子供のくせに。そろそろ、大人にならなきゃ。 そんなこと言うの、佐伯くんらしくないよ。 ……じゃあ、じゃあ、俺らしいってどんなだ?おまえは俺の何を知ってる? 知ってるよ。ずっと、一緒にいたもん。 …………。 学校ではいい子で通してるけど、ホントはちょっと乱暴で、皮肉屋で…… でも、海や、珊瑚礁や、おじいさんのことを話す時は、とっても優しい目になって── そっちがウソだとしたら? えっ? 学校の俺が本当で、おまえと過ごしてた俺が、全部ウソかも知れない。 ……ふたりで一緒に笑ったり、ときどきは、ケンカもしたけど……そういうことも、全部? ああ……酷いもんだろ? そんな…… だから、忘れて欲しい。珊瑚礁のことも……俺のことも。 そんなの、無理だよ……。 頼むよ、耐えられないんだ。これ以上、情けない俺をおまえに見られるのは…… 佐伯くん……。 人魚と若者はさ……出会うべきじゃなかったんだ。 そうすれば悲しい物語なんて、無くてすんだんだ。 ……さよなら。 (佐伯くんが行っちゃった……。もう、会えないんだ) |
珊瑚礁 |
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……おい。 え?あ、ゴメン……なんだっけ? もう上がれって言ったんだ。いい時間だぞ?あと、やっとくから。 うん、じゃあ、ここ片付けたら。 いいよ。上の空で皿割られちゃ、かなわない。 大丈夫、すぐ終わるから──あ! やってくれたよ……。 ゴメンなさい……。 ほら、代われよ。 いいよ、自分で片付ける。 いいから。 あ……。 |
スチル |
佐伯くん……。 見てられないよ……おまえさ、そんなタフじゃないだろ。 ゴメン、今日はちょっと、疲れてるのかも。 そうじゃない……。 ……え? おまえのこんな顔、見ることになるって知ってたら、俺は、引かなかったんだ。 辛いならさ、もう、やめちゃえよ……。 …………。 ゴメン、フェアじゃなかった。余裕、無いんだな……俺も。 (佐伯くん……) |